虫入り琥珀　可動水泡G　化石　ミャンマー　カムティかタナイ産　9900万年前

●泡の痕跡だけが見えるものは比較的多く見つかりますが、本品は、中生代の水と大気が琥珀の中に封じ込められています。大変希少なものです。
●写真の三角形は、泡の位置を示しています。

「太古のにおい」

　タケシは、物心ついたときからにおいに敏感だった。物が発するにおいに興味を持ち、どんなものでもにおいを嗅いだ。
　ただ、香水や洗剤など、人工的なにおいには関心がなかった。食べ物や生き物、木や草花や土、さらに、空気のにおいを嗅いだ。
　その土地土地によって、空気にも違いがある。都会と田舎はもちろん、そこに住んでいる人によっても、漂うにおいは微妙に違った。タケシは、空気のにおいを楽しんだ。
　小学校に入ると、家族と旅行に出かけた先々で、ビニール製の密封袋にその土地の空気を入れ、持ち帰ってコレクションにした。両親も、２つ年上の兄もあきれたが、本人は大真面目だった。袋の表面には、それがどんなにおいだったかを、事細かく書き込んだ紙を貼りつけた。
　ある日のこと──。
　父が、メルカリで珍しいものを買った。それは、9900万年前の気泡（空気）が閉じ込められているという、薄いオレンジ色をした透明な小さな石だった。
　母も兄も、そして、購入した父も、最初は物珍しげに石を眺め、リビングにある棚の上に飾っていたが、すぐに興味を失った。
　タケシは、そのときを待っていた。
　気泡入り琥珀を手にすると自分の部屋に持ち込み、床の上に置いた。そして、琥珀に鼻を近づけ、用意しておいた金槌で叩いた。
　少しずつひびが入る。あと少しで気泡に到達する。
　小さな石にくっつくかというほど鼻を寄せ、金槌を振った。
　とうとう琥珀が割れた。
　急いで吸い込む。
　目を閉じ、鼻の奥を通過する気体に全神経を集中する。
　太古の地球のにおいがした──、ような気がした。

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