ネカ　ウルフプレデター　現状中古品　全高20センチ

フィギュアマスター

どんな世界にも必ず’その道’のプロがいる。

あるフィギュアマスターとの会話

[コトハジメの儀]

「開封してすぐに無理やり動かすから、関節とかダメにするんだよな」

たくさんのフィギュアが並ぶショーケースからひとつづつフィギュアを取り出し、関節が滑らかに動くかチェックしながらマスターは呟いた。

毎日の日課を淡々とこなしながら、初心者にありがちな誰もが通る洗礼だと付け加えてくれた。

私自身も開封の段階でフィギュアの腕や足を破損させた経験がある。

フィギュアは完璧な製品として消費者の元に届く訳ではないのだ。
検品ミス、品管の怠慢などから今だに初期不良はフィギュアファンの頭を悩ませている。
目に見える不良なら市場に出回る確率はぐんと下がるのだが、問題なのは見えない不良である。
よくあるのが関節の癒着による破損なのだと、マスターは簡単に説明してくれた。

「どうすればいいんですか？」

「一緒にお風呂に入るんだよ」

マスターは言葉を継いで言った。

「最初は保険をかけて、ドライヤーで柔らかくしながら少しずつ関節の様子を見る。破損が怖いからな。　それでもリスクはあるんだ、だからお風呂が最適解なんだ」

今だにぴんと来ない私をよそに、マスターは日課を終えると、今日、新しい子を迎えたと嬉しそうに笑うと風呂場へと消えた。

お湯はりを終えるとマスターは戻ってきた。

「歳をかさねると関節痛とかで湯治の為に温泉巡り、あれと似てるかもな。　温めながらゆっくり様子を見ながら動かしていく」

私は妙に納得している自分に気づいた。マスターはそれをフィギュアに置き換えて実践しているのだ。

「すべての関節をお湯で温めながら少しずつ動かしてベストなテンションで仕上げる。固すぎず緩すぎずのポイントを探ってやるんだ」

もうこれ以上の説明は必要なかった。私はなぜマスターがマスターと呼ばれるのか分かった気がした。

「じゃ、新しい住人のコトハジメの儀をするから今日はこれで」

私は邪魔をしてはいけないと、御礼を伝え帰り支度を始めた。　マスターの右手には新しいフィギュア？　が握られていた。


宇宙戦艦ヤマト、、、


「戦艦ヤマトはっしーん！」

お風呂場から幸せそうな声がした。



(関節どこに付いてんねーーーーーーん！)

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